ローマの天使 アレッサンドロ・モレスキ

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1902年と1904年に録音された曲のうち、モレスキがソロを務め聖歌隊と共に歌っている曲をアルファベット順に解説した。

Domine Salvum Fac Pontificem Nostrum Leonem

Giovanni Aldega作曲
(ソプラノソロと合唱、ピアノ伴奏、1902年録音)

ジョヴァンニ・アルデーガはこの時代の作曲家。
歌詞はレオ13世を讃えるものだ。

19世紀のローマには、ミサ曲を書く作曲家がたくさんいた。このCDにもいくつかが収められているが、宗教的な歌詞に曲がつけられているものの、音楽自体はロマン派らしい流麗な旋律をもつものだ。
サロン音楽のように聴こえるものもあれば、オペラ・アリアのように華やかなものもある。この曲はどちらかといえば後者か。
曲の最後でモレスキはフォルテで高いB♭を歌い上げるが、そこにはオペラティックな雰囲気がある。
彼が少年時代にスコーラ・カントルムで勉強した曲には多くのオペラ・アリアが含まれていたし、現代と比べると19世紀は、作曲や演奏の様式において、舞台音楽と教会音楽の垣根が低かった。だがそれこそがチェチリアニストたちに問題視されたのだ。

Et incarnatus est / Crucifixus

Luigi Pratesi作曲
(独唱、終わりに合唱が伴う、ハルモニウム伴奏。1902年録音)

ルイジ・プラテージも19世紀の作曲家。Domine Salvum Facに比べ、やや宗教色が濃い作品。
テキストはミサ通常文より「クレド」の部分。

Truesound transfers版のマスタリングの威力をもっとも感じられるトラック。
OPAL版ではかなり音質が悪いが、Truesound transfers版では鑑賞にたえる音質になっている。
Truesound transfers版を聴くと伴奏をつとめるのはハルモニウムだと思われる。
ピアノに比べ録音機器が拾いにくい音質であるため、OPAL版では雑音に埋もれてしまっている。

「Maria Virgine」のテキストをたたみかけるように繰り返す部分が特に印象的だが、曲全体に感情の高まりを感じられる。
彼の歌う宗教曲は平安だけでなく、敬虔な魂の高揚を感じさせる。

La cruda mia nemica

Pierluigi da Palestrina作曲
(ソプラノ、アルト、テノール、バス、無伴奏。1904年録音)

ルネッサンス後期の作曲家として有名なパレストリーナの曲で、この曲は4声のマドリガル集第2巻に収められている。
パレストリーナは「教会音楽の歴史」の項目でもふれたように、教会が理想とした多声音楽の作曲家であったが、この曲の歌詞は恋する女性のつれなさを嘆いたもの。

モレスキ以外の3人の歌手については名前が分かっていないが、アルトを歌っているのは、カストラートのドメニコ・サルヴァトリ(1855-1909)ではないかとクラプトン氏が著書に書いている。
新教皇が「正しい教会音楽」を世に示すために呼んだグラモフォンに、その代表格の作曲家パレストリーナの曲から、あえて世俗曲を選んだソリストたちの、チェチリアニズムへの対抗が垣間見える。

Messa di san bonaventura

Gaetano Capocci作曲
(ソプラノ、テノール、バスによる交唱曲、終わりに合唱が伴う。
 ピアノとハルモニウムによる伴奏。1904年録音)

ラテラーノ大聖堂音楽監督カポッチはモレスキの師であり、作曲家・オルガン奏者であった人物。
テキストはミサ通常文の「グロリア」より。

テノールを歌うのはチェザーレ・ボエーツィ、バスはアルマンド・ダドーである。
またこの曲では指揮もモレスキが担当している。

OPAL盤で「Laudamus te」として収録されたこのトラックは、実際は8分半余りに渡って録音された「Messa di san bonaventura」の中盤2分半あたりから現れる三重奏部分である。
初期のレコードは録音時間が短かったため、原盤は3枚に分かれており、OPAL盤に収録されたのは真ん中の部分にあたる。
Truesound transfers盤では全曲通して聴くことができ、合唱→三重唱→合唱→テノール独唱→合唱という構成を持った曲であることが分かる。

この三重奏部分だけを聴いても、チェザーレ・ボエーツィの音程はシャープしがちである。
彼のピッチは、ソプラノパートが入ると安定するのであまり気にならないが、「Messa di san bonaventura」として通して聴くと、独唱部分ではかなり上ずっている。
だがボエーツィは、ピッチに欠点はあるものの、力強く輝かしい声を持っている。

Oremus pro Pontifice

Emilio Calzanera作曲
(ソプラノソロと合唱、ピアノとハルモニウムによる伴奏。1904年録音)

これは唯一、12インチレコードでリリースされた。
指揮はチェチリアニストのロレンツォ・ペロージだが、そもそも曲自体が世俗曲を思わせる。
この曲を書いたエミリオ・カルツァネーラは、1879年からシスティーナ礼拝堂聖歌隊でバスとして歌っていた。
親しみやすく美しい旋律を持った曲で、ソロと合唱のメリハリもあり、盛り上げ方も素晴らしい。
テキストは1903年に亡くなったレオ13世を讃えるもの。
レオ13世は死の直前、カストラート排斥を盛り込んだ「モトゥ・プロプリオ」にサインをしている。
この曲を歌うモレスキの心情はいかばかりであったろうか。
真のプロとして私情を廃し、教皇への賛美を歌い上げている。

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